本棚は人生

20151213
堅気の世界から足を洗って絵描きになると決めたとき、蔵書のほとんどを断腸の思いで売り払った。
空っぽになった本棚を見たとき、日記をつけないぼくにとって本のコレクションが、自分がどのように生きたかを示す唯一の記録だったことを悟り、自分が一度死んだ気がしたのを覚えている。
その後、必要にせまられて芸術関係の本が増えていったけれど、いま振り返ってみると、これら芸術関係の本から芸術について何かを教えられたような実感がほとんどない。むしろ、いっとき自分が捨てた自然科学の書物に図書館などで再会したときのインスピレーションには計り知れないものがあった。
あの当時、どうしても手放せなかったわずかの本がいまも手元にある。野鳥関係の幾冊かの古書、寺田寅彦、比較心理学、小泉八雲・・・手放そうか残そうか迷った記憶とともに、その頃に悩んだこと、夢中になったこと、抑えきれなかった怒り、呪詛、喜びや希望がありありと思い出される。

本棚は人生。